H-meat

Music / Novel

H-meat

“喰べたいぐらい、愛してる”

詩緒里を食べてみたいんだ」

「あのさ、俺。

深刻な食糧危機により、苦肉の策で生まれた技術H-Meat”。

自分の培養肉をタピオカ感覚で食べるようになった社会で働く詩緒里は倫理に反するH-Meatを忌み嫌っていた。

しかしそれは思いもしないところから彼女の日常を蝕ばんでいった。

第一話

AM 8:30。柿崎詩緒里は毎朝同じ時間に目を覚ます。

顔を洗いテレビをつけてワイドショーのたわいもないニュースを見ながら、前日に用意した弁当のあまりものを口に運ぶ。テレビでは女性リポーターが中継先の原宿から”Hミート”をたどたどしく紹介している。眠い目をこすり、無理やりテレビに焦点を合わせる。世間の流行りにさして興味はないものの、広告会社で働く詩緒里にとっては大事な情報だった。少し前のタピオカブームの時も新しくできたショップや商品をキャッチアップするのに苦労したが、最近ではタピオカのタの字も聞かなくなっていた。リポーターのつたない食レポに対し、司会者の上手いか下手かわからないフォローを経て中継は終わり、占いのコーナーがはじまった。ぼやっと眺めていると、詩緒里のさそり座は3位に輝いていた。”急な告白に気をつけて”というアドバイスと、”お箸”というなんとも言えないラッキーアイテムを一方的に告げて、ベルトコンベアのように次の星座に写っていった。

「そろそろ準備しないと」

一人暮らしが長くなり、独り言も増えてきた。以前、

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Review

“食べちゃいたいほど可愛い”という表現がある。なぜ愛すべき人に攻撃的な衝動(食べたい)を抱いてしまうのだろうか。しばし人はポジティブな感情と共に相反するネガティブな感情表出(嬉し泣き、”尊い、無理”等)を行う。ある研究では、強すぎるポジティブな感情に圧倒されないようにネガティブな感情でそれを抑え込み調節しているのではという可能性が示された[1]。実験では可愛いものを見たあとでは、攻撃的な衝動を持った人の方がニュートラルな感情状態に戻りやすかったことが示された。

現実にはありえない諺ではあるが、ひょっとしたら培養肉により実現するかもしれない。

昨今食糧問題を背景に培養肉の研究は大きく進んでいる。日本では東京大学や食品会社の研究チームが食べられる培養肉の開発に成功した[2]。現段階では倫理的問題だけでなくヒトプリオンの経口摂取との関連性が指摘されているクールー病の危険もあるため、ヒトの培養肉を食べることはできない。もし将来これらの障壁がクリアになり、そして愛情表現としての摂食行為を求められたときどのように反応するだろうか。

Reference

[1]Oriana R. Aragón, Margaret S. Clark, Rebecca L. Dyer and John A. Bargh (2015) “Dimorphous Expressions of Positive Emotion: Displays of Both Care and Aggression in Response to Cute Stimuli”, Psychological Science, 26(3): 259–273

[2]PRESS RELEASES 「日本初!「食べられる培養肉」の作製に成功」

Credit

アートワーク
平田義幸
作品解説
水山遼
企画/小説
浅井順也

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